とても長文です。
どうしてもはしょることができませんでした。その理由については文末にて。
お時間のあるときにどうぞ。

今朝見た夢。
主人公は34歳男性。私は主人公の中から俯瞰している感じ。
以降、視点は主人公の男性とし、一人称は 『俺』 とします。

親父が女と逃げた。
子供の頃から、なんとなく 「浮気してるんだろうな」 と思うことは何度かあったが、それが同じ女性とずっと繋がっていたとは知らなかった。
親のコネで入社した俺は、社内に事情を知る人がたくさんいる。だから親父がそんなことになってからは居心地の悪い毎日だ。
しかし、もともと体の弱かった母がショックで倒れ、入院生活となってしまった以上、簡単に会社を辞めるわけにもいかない。

親父が放り出した実家のローンに加え、母の入院費と生活費も俺が背負うことになったため、週末は引越し屋のバイトもしている。
周囲の好奇心と揶揄に満ちた視線に晒されながらも、働き続けるしかない毎日だ。

引越しバイトの休憩中、ふと思いついて親父の携帯にメールを送ってみた。
「今どこにいるんだ。せめて母親に謝罪して、負うべき責任を果たしてから女と暮らすべきだろう」
以外にもメールはエラーにならず、数時間後に返信が届いた。
メールの内容は簡潔だった。
「金はない」

母の入院費や生活費なんか俺が払う。今日までも払ってきたし、これからだってそのつもりだ。
今まで母に育ててもらったのだから、そんなことはいい。
俺が言いたいのは、『母に分かる形で謝罪の気持ちを表せ。そして、夫としての責任を果たせ』 ということだったのだ。
このメールを見て分かった。
俺が失望したのは、親父が長年家族を裏切って浮気していたとかいうことではない。
謝罪もせず、責任も果たさず、逃げ回っている、卑怯で弱い人間と知ったことが嫌だったのだ。

ある日、会社のエレベーターホールで、営業部の部長とすれ違った。
「やあ、キミも大変だねえ。でも、お父様はお元気そうで良かったね」
何のことか分からずにいると、営業部長はにこやかな笑顔のままで俺に言った。
「先月ね、○○建設のゴルフコンペがあってね、お父様もそれに来てたよ。で、あの、今一緒にいらっしゃる、アツコさん?あの人も一緒にね。もう再婚されたのかな?あ、まだキミのお母様とは離婚してないんだったかな、失礼。アツコさんもゴルフがお上手でねえ、前から上手だったけど、最近また腕をあげられて・・・・」

営業部長の、穏やかな笑顔の裏に、好奇心と侮蔑の表情が見えた。
挨拶もそこそこに、オフィスに戻った。
・・・オフクロに支払う金はないのに、ゴルフにはいくのか。
親父はもう何年も、あるいは十何年も前から、愛人を連れて堂々と知人と会っていたのか。
それがどんなにみっともなくて恥ずかしいことなのか、分からなかったのだろうか。そんなことをしたら、母に対して失礼なだけじゃなく、自分自身や愛人すらも貶めることになると、なぜ気づかなかったのだろう。
親父はそんなに幼稚で愚かな人間だったのか。

次の週末、祖父の法事だったが俺は仕事で欠席した。
長男で一人っ子なのだから出席すべきだったが、週末のバイトを休むと母の入院費が払えなくなるからだ。
バイトを終え、俺に代わって法事を取り仕切ってくれた叔母の家へ向かった。住職さんに支払うお礼を立て替えてもらったため、その金を持っていかなくてはならない。

玄関に出てきた叔母は、金を受け取るとにこにこしてしゃべりだした。
「○○ちゃんも大変ねえ。でも、仕方ないものねえ、あんたのお母さんも気の毒だわ。私たちも心配してたって伝えてね。そうそう、今日ね、あんたのお父さんも来たわよ。やっぱりねえ、実の父親の法事だから、来ないわけにもいかないわよねえ。アツコさんも一緒でね、よく気が利く人ねえあの人。住職さんにお茶とか淹れてくれてね」
叔母が何を言っているのかさっぱり分からなかった。親父が?法事にきた?愛人を連れて?
父親の法事に、愛人を連れて?

ぺらぺらとよく動く叔母の唇を見ていると、猛烈な吐き気がこみあげてきた。
叔母の口元には、好奇心と揶揄、そして不幸なものを見る人間特有の優越感のようなものが見えた。
めまいをこらえていると、叔母の想念が流れ込んでくる。
「あんたのお父さんねえ、ちょっと大手一流企業に入って出世したからってねえ、いつも偉そうにしてたけどねえ、愛人と逃げて、奥さんは倒れて、随分とみっともないことになったわねえ。今まであたしたちに偉そうに口出ししてたけど、結局あんな男だったのよねえ。しかも法事に愛人なんか連れてきちゃって、いやあねえ、あたしたちびっくりしたわ」

俺は関係ない。
俺になにも言うな。何も知りたくない。アツコって誰だ。名前なんか俺に教えないでくれ。親父がケロッとした顔でゴルフを楽しんでるなんて、神妙な顔で祖父の法事に出てるなんて、そんなことを俺に教えるな。
知りたくもない親父の姿が、俺の脳裏に満ちてくる。
叔母の家の玄関で、俺は嘔吐した。

今までは必死に働いて、母親を支えていればよかった。
でももう、恨むべき相手の名前が、存在が、形になってしまった。
しれっとした顔で、親父とゴルフコンペに出るような、恥知らずの愛人。
責任も果たさずに逃げ回っているくせに、楽しいことは諦められない、愚かな男。
なぜ、そんな人間のために、母は倒れなくてはならなかった?なぜ、俺が全てを背負っている?
金を払うのはいい。働くのも別にいい。でも、なぜ、謝罪されるべき人間が謝罪もされず、辛い思いをして背負わなくてはいけない?
なぜ、俺や母が好奇の目に晒されて生きてゆかなくてはいけない?
それからの俺は、親父を呪詛するために生きているようなものだった。

ある日、『言葉のカウンター』というものが、俺の目の前に現れた。(いきなりの夢設定)
人は誰でも、誰かと交わす言葉の数が決まっているらしい。
俺の目の前に、『父と交わす言葉のカウンター』 が現れたということは、俺はもう、生きて親父と会うことはないのだろう。
親父は、俺が小さい頃からあまり家にいなかったため、カウンターの数字は結構な数が残っていた。
俺はそれを、全て呪詛の言葉で消費した。
「死ね」
「償え」
「責任をとれ」
「恥ずかしくないのか」
「不幸になれ」
「卑怯者」
「不幸になれ」
「不幸になれ」
「不幸になれ」

俺は機械的に仕事をこなしながら、その頭の中は負の感情でいっぱいだった。
空いている時間は全て、親父への呪詛で埋め尽くした。

そして、『言葉のカウンター』 が、最後の1文字になった。
最後の文字は何にしよう。『死』 か? 『殺』 か? 『恨』 か?
言霊というものがある。最後の1文字で、親父に最大のダメージを与えたい。俺の気持ちの全てをぶつけたい。
大事な最後の1文字だ。よく考えよう、よく考えて決めよう・・・毎日毎日、そればかりを考えていた。頭の中は、呪詛の言葉でいっぱいだ。
一体、何日経ったのだろう。いや、何週間か。何ヶ月か。
そればかり考えているうちに、ふと、口から言葉がもれた。
「・・・・・疲れたな。」

人を恨むのにもエネルギーがいる。人を憎むには、自分のエネルギーと時間を使わなくてはならない。
ここ数ヶ月ずっと俺は、親父のことばかり考えて、そのために負の感情に埋め尽くされていた。
でももう・・・・・疲れた。
当たり前だが、俺はまだまだ、生きなくてはならない。突発的な事故や病気がなければ、間違いなく数十年は生きるだろう。その長い長い年月を、親父を恨むことだけで使ってゆくのか?
そんなのはもういい。もう、自分の時間を生きたい。もう、切り離そう。

ふっと思いついた。最後の1文字は、『切』 だ。

親子の縁を切った、という意味ではない。
親父を許したわけでもない。
俺は、もう、親父のために、自分の大切な時間を使うことをやめにしたのだ。自分と、負の感情とを、切ったのだ。

なんだかとても、楽になった。
給料と社会的地位は良いけれど、毎日だれかの好奇に満ちた目を気にする職場なんて、辞めよう。
うわべだけ親切そうなことを言う親戚たちとの付き合いだって、別に生きてゆくのに必要ないじゃないか。

ふと思い出した。俺・・・、結婚してたんだ。

親父が逃げてからというもの、俺は自分のことだけでいっぱいで、妻のことを全く考えていなかった。
そうだ、アイツがいいと言ってくれたら、アイツの出身地に引っ越して、新しい生活を始めよう。
母の入院先も、そちらへ移そう。母にだって、新しい場所が必要だ。
捨てると決めて逃げた人間に追いすがって、責任を問うても仕方ない。逃げ続けると決めた人間は、逃げさせておこう。
前を向いて生きてゆくと決めた人間だけで、前に進もう。

アパートの玄関を開けると、狭い台所で料理を作っている妻の背中が見えた。
「ただいま・・・・遅くなってごめんな」
「なに珍しいこと言ってんの(笑)いつももっと遅いじゃない」
「いや・・・・あのさ、突然だけど、お前の地元に帰らないか。俺、仕事もそっちで探すよ。給料は下がるけど、一所懸命やるからさ」
「今の会社、辞めていいの?」
「いいさ。俺、人生で何が大事か分かった気がするんだ。遅かったかもしれないけど、分からないままよりは良かったと思ってさ・・・ごめんな。俺、自分の人生を、お前と俺の人生を、ちゃんとやっていきたいんだ。俺は、お前に対しての責任を全うするよ。俺は。俺は、ちゃんとする。俺は、全うする。どんなことになっても、逃げないでちゃんとする」
「なに、いきなり難しいこと言って(笑)・・・・・ところで、ちょっと大事な話があって」
「なんだ?」

「あのね、・・・・・お腹に、赤ちゃんがいるの。来年の春には生まれるって、先生が」
いつの間にか、季節はずいぶんと流れていた。
そうか、春が、くるのか。


この後、引越し先で働く主人公とか、お腹の大きくなった奥さんとかのエピソードも続くのだけど、まあそこは蛇足的な感じだったので割愛。


かなりの長文になりました。
短編にしようと随分と文章を作り変えたりもしましたが、やはり、主人公が負の感情に飲み込まれるに至る経緯と、飲み込まれてしまった主人公の状態を書いておかないと、最後の1文字を選ぶときの心の動きが表せない、と思い、そこまでのエピソードはなるべく残すようにしました。
本当は、事情を知っている同僚や先輩たちの態度とか、あちこちから入ってくる父親の噂からさらに負のスパイラルに陥ったりとか、もっともっともっともっと、嫌な思いをしていますが、エグイので(笑)全部は書きませんでした。

あのね・・・・、正直、人間不信になる経験でした(笑)
逃げた父親が元凶だけど、彼をさらに追い込んでゆくのは、周囲の人々でもあるんですね。



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