今朝見た夢。

私はある女性の視点の中から夢を見ている。
夢の中ではそれは私自身ではないが、視点が女性の内部であるため、便宜的に 『私』 と呼ぶ。

私は、日本に住む普通の女性。
どこにでもいる、普通に仕事をして、普通に週末を楽しみ、このまま何事もなく人生がすぎてゆくと思っている。
あなたや、私のように。

それがある日突然、目が見えなくなった。
最初は目がかすむ程度だった。それがだんだんひどくなり、視界は狭まり、目の前は白く霞み、ほとんど見えなくなった。

私は絶望しなかった。
なぜなら私には家族がいるし、友達もいるし、目が見えなくても幸せにすごしてゆくことはできると思っていた。
家族は優しくサポートしてくれるが、毎日一緒にいて世話をしてもらうわけにはいかない。私も外の世界で生きてゆけるよう、自立していかなくてはならない。
幸い私には信頼できる友人たちがいるので、やっていけると思っていた。

目が見えなくなったある日、『神』 が私のもとに降りてきた。
「暗闇を恐れぬ者よ。真に大切なものを知る者よ。祝福をさずけよう、そして見守ろう」
私は嬉しかった。大切なものを知っている、だから神様が見守ってくれるのだと思った。


友人たちは私の境遇に同情し、私のためにライブをやってくれると言った。
「目が見えなくても音楽は聞こえるから、あなたも楽しめるでしょう?」
楽しそうに打ち合わせを進める友人たち。
しかし、いつの間にか私の存在は忘れられ、彼ら自身の楽しみで事は進んでゆくように見えた。

いや、そんなのは気のせい。私のために楽しいライブにしようとしてくれてるんだ。ひがんじゃいけない。
そう思っていたが。
ライブ会場は、エレベーターのないビルの4階。会場までは家族がついてきてくれたが、ライブの後は一人で帰るしかなかった。友人たちは打ち上げに行き、そこに私は呼ばれなかった。
「帰りは夜になるし、足元も危ないからね、かえって悪いから」
私は手探りで階段を降り、歩道で手を挙げ続けて、タクシーが止まってくれるのを待った。


目が見えなくなって、初めて感じる恐怖。不安。取り残される孤独。
私は知った。
目が見えなくなることが辛いのではない。目が見えなくなったことによって、自分が信じていた人たちの無関心を知ったことが一番辛いことだった。
同情は、その場限りの甘い菓子だった。
菓子は確かに甘かった。
しかし、自分の時間や労力を削って、私と歩いてくれる人はいなかった。


ひとつひとつは些細なことでも、それが私にとっての 『未来』 を示すものに見えて仕方なかった。
日々の孤独と悲しみは、私の中に積もっていった。
私は絶望というものを、初めて知った。


ある日、また 『神』 が現われた。
『神』 は言った。
「楽しくすごしているか。人々の助けによって、支えられているか」
私は答えた。
「こんな理不尽な世界には耐えられません。どうか私の目を治してください。」

『神』 は言った。「お前の目を治すことはできない。しかし、この理不尽な世界を終わらせることならできる。」

「治すことはできないのですか。私は一生、見えないままですか」
「お前の悲しみは、見えないことではない。それはきっかけだ。お前の悲しみは、目が見えなくなったことで見えてきたものだ。しかし、その理不尽な世界を終わらせることはできる。理不尽な世界を終わらせる権利は、理不尽な目に遭った者だけにある」

終わらせる権利。それは、この世界を終わらせる、恐ろしい権利。

「一言、言えばよい。この世界を終わらせる、と。そう言えば、すべては終わる。悲しむお前の横で、笑っていた人々の、幸せな生活を。お前のことなど他人事にして、自分の幸せが続くと信じていたおめでたいやつらの、未来を。すべて、一瞬で、終わりにできるのだ。さあ、言葉を。」


そのとき私は、ずっと私に語りかけてきた 『神』 の正体を知った。

「さあ、言葉を。」


視界に広がる暗闇の中で、ゆっくりと私は隣に立つ 『神』 の方に顔を向けて、口を開いた。








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